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「そうですか。痛くないなら良かった。・・・って言っても、今でも痛みを薬で抑えてるから一緒か」
宮脇さんは先生と私の顔を交互に見ると、安堵の表情を浮かべ目尻のしわを深く刻んだ。
「壊死した皮膚を取る処置は痛くないと思いますが、皮膚が再生していく過程では痛みがあると思います。
なので、痛みついては麻薬の量を調節して、痛みで日常生活に支障が出ないようにしていきます」
先生は声に力を込めて宮脇さんに言葉を返す。
生命を脅かす病と戦う患者さんにとって、痛みは最大限の不安と苦痛を生み出す。
その身体的な痛みを取り除き、心理社会的にも焦点を置く「緩和ケア」は、私たちが重要視しなければいけない医療アプローチの一つだ。
「定期に服用する麻薬だけでは痛みが抑えられないときは、痛みを感じた時にさっと飲める水薬の麻薬もあります。
麻薬の量が増えることに不安を感じるかも知れませんが、そうやってご自身で調節しながら仕事を続け、日常生活を送って見える方が大勢いますから、心配ないですよ」
先生に続いて私も掛ける声に力を入れた。
「・・・麻薬中毒にならないかしら・・・」
宮脇さんが苦笑いを溢す。
「がん患者さんは中毒にならないと証明されてますから大丈夫です!」
「・・・使い過ぎで命を縮めるとか・・・」
「命を縮めるだなんてとんでもない!痛みが上手にコントロールされると、食事も睡眠もとれて全身状態が良くなります。栄養状態の改善は、新しい皮膚を作るのにも大切ですから!」
遠慮がちな視線を向ける宮脇さんに笑顔を返し、私は右腕でガッツポーズをきめた。
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