胸に咲く桜

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残暑の厳しい9月上旬。 病院の中庭からは、煩いほどのツクツクボウシの大合唱が聞こえる。 私は外来のカンファレンスルームの椅子に座り、テーブルの上に広げた、宮脇さんの経過記録を見つめため息を落とした。 「どうしたの?そんな大きなため息ついて。・・・ああ、宮脇さんか・・・」 隣に座る同期の美紀が、私の手元に視線を落とす。 「んん・・・ちょっとね。・・・ずっと引っかかってる事があって」 「引っかかってる事?宮脇さん、先月末から放射線療法始まったんでしょ?出血も治まって、腫瘍の縮小が見られてるって言ってたじゃん」 浮かない表情の私の顔をまじまじと見つめ、美紀が首を傾げた。 今日は、毎月1回行っているチームカンファレンスの日。 ここでは、それぞれの担当外来から連絡事項や業務報告をし、通院している患者さんの情報交換と、看護支援(ナースプラン)の方向性などを各チームのスタッフで話し合っている。 私は外科チームナース。 夜間・休日の救急対応や、救急隊からの搬送患者さんの対応については、内科系も外科系も関係なく診察、処置の介助に付く。 が、それ以外の一般外来については、完全固定チーム体制をとっている。 外科チームナースは全部で14人。 そのうち、主として乳腺外科を担当しているのは、私と高峰さん(前回の話で登場したユリさん)、今年度病棟から異動してきた3年目ナース佐渡(サワタリ)さんの3人だ。 「櫻ちゃんは、宮脇さんの『あと半年でいいんです』の言葉が頭から離れないんだよねー。・・・でしょ?」 ユリさんが3色ボールペンを指でクルクルと回しながら言った。
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