胸に咲く桜

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「うん。宮脇さんの言う半年って、どういう意味だったのかってずっと考えてたんだよね・・・。遠隔転移がないんだから、抗がん剤治療が上手くいけばまだ数年は生きられるのに・・・。 あの、いつも明るくて前向きな宮脇さんの口から、あんな言葉が飛び出すなんて思ってもみなかった・・・。 表面の姿だけ見てて、今まで宮脇さんの気持ちに気づいてあげられていなかった自分が情けないよ・・・頭をハンマーで殴られたくらい衝撃だった」 この数日間、涙を浮かべて先生に縋る宮脇さんの姿が頭から離れないでいた私は、再び重いため息を机に落とした。 「・・・そうだね、宮脇さんいつもケラケラ笑ってて、西島先生をキャピキャピ言いながら追っかけてるイメージで、乳がんを告知した時だって動揺も見せずに『先生!さっさと切っちゃって下さい!』って言ってたもんね」 ユリさんも私に続いて深いため息を落とした。 「私たちはがん患者さんと接する事に慣れ過ぎて、『この人は局所再発だからまだ大丈夫』だとか、『この人は多発性の肝転移があるからあと半年くらいかな』とか、その人の余命を勝手に予測してしまうけど、それってとんでもなく冷酷だよね・・・ がんと闘う患者さんは、転移の状況関係なくいつも死を恐れてる。いつも死を意識してる。・・・そんな当たり前のことを忘れて、大きな衝撃を受けた自分に、更に衝撃を受けるよ」 「・・・宮脇さん、放射線治療が終わったら、抗がん剤の種類を替えるんでしょ?今度は薬が効くと良いね」 床に沈みそうなほど落ち込む私を見かねた美紀が、私の腕をトントンと叩き笑みを浮かべた。 「宮脇さんは仕事が一つの生きる支えになってる。定年退職をむかえた後の精神的フォローも重要視しなきゃね。目標達成したと同時に、空虚感から身体的にもガクッと来ちゃう患者さん多いから。 スタッフの中で、宮脇さんが一番話しやすそうで仲良しなの櫻ちゃんだから、今後も櫻ちゃんがメインでプラン立案していってね。私達はそのフォローに回るね」 ユリさんが、受け持ち患者一覧表にペンを走らせながら言う。
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