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「櫻井さ~ん。高峰さんがまた私を虐めますぅ。助けて下さいよぉぉ~」
ユリさんに両頬をムニムニされながら、へん顔になった佐渡さんが私に手を伸ばす。
・・・あっ!
この子、誰かにキャラが似てると思ったら!
奈美だ!!奈美に似てるんだ!!・・・通りで、おドジなおバカキャラでも憎めない。
私は、以前勤めていた病院で可愛がっていた後輩の顔を思い浮かべ、懐かしさに顔を緩めた。
「ちょっと!なに他人事みたいに眺めてんのっ!この子の教育係は櫻ちゃんなんだからねっ!」
頭の中を美しき青春時代にタイムワープさせている私に、現実に戻ってこいとばかりにユリさんが高い声を上げた。
「えっ!なんで私が教育係に!?リーダーのユリさんの役目でしょ!?」
「いいの!リーダー命令なの!」
リーダー命令って・・・それってパワハラじゃん・・・
唖然とした表情を浮かべ、恐る恐る視線を左隣に移すと、案の定、ニコニコ顔の佐渡。
「良かった~。これで高峰さんに虐められずに済むんだ~。櫻井さん、宜しくお願いしますぅ~♪」
・・・前途多難。
「今度は私がイジメてやる・・・」
冗談交じりに呟いた。
カンファレンスの後には、いつものように世間話や、憎たらしいドクターの悪口大会が始まる。
私は、笑い声が飛び交う中、ふと手元の紙に視線を落とした。
宮脇さんの放射線治療ももうすぐ中盤に入る・・・
そろそろ壊死した腫瘍が剥がれ落ちてくる・・・
初めて挑戦する、再発部分に対する2回目の放射線治療・・・
手術にしても、放射線治療にしても、薬物治療にしても、期待はできても実際にはどんな結果になるのかはやってみなければ分からない。
想定外の事が起こり得る・・・それが医療の世界。
「・・・・」
もやもやとした得体の知れない不安を感じながら、祈るような気持ちで宮脇さんの顔を思い浮かべていた。
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