胸に咲く桜

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「今までは赤かったけど、今度は黒と茶色になってきちゃった。お風呂でマッサージしてるとね、ポロポロ剥がれて来るの。面白いでしょ?」 放射線治療を終え数日後、外来の処置室のベッドで横になる宮脇さんが笑う。 「ほらほら、見て見て♪」と言った様子で大胆に洋服を捲し上げた下からは、放射線の攻撃を受けた後の腫瘍が顔を出す。 血液と浸出液で生々しい色と臭気を放っていたそのモノは、大部分が黒と茶色に変色し、出血と浸出液の流出は見られない。 壊死したがん細胞が剥がれ落ちたため、大きさも以前と比べて全体的に縮小しているように見えた。 「腐った部分を切るとき痛いけど、あまり痛かったら言ってね」 横たわる宮脇さんの横に座り、西島先生が先の細い手術用のハサミで死んだがん細胞を宮脇さんの体から排除していく。 「汚い皮膚を付けたままにしておくと、下から新しい皮膚ができにくくなっちゃうから・・・ごめんね、痛いね・・・」 私は先生の反対側に回り、しゃがんだ姿勢で宮脇さんの顔を心配そうに覗き込む。 黒く変色した細胞の下から見える黄色い膜。 これも排除しなくてはいけない不要な壊死組織。 通常の擦り傷や火傷の傷でも同様であるが、黒や茶色、黄色に変色した不要な皮膚は取り除くことで皮膚の再生が促される。 要らない皮膚を付けたままにしておくことは、感染の原因にも繋がる。 一昔前の「乾燥させてかさぶたにして治す」は、現在では「かさぶた(不要なもの)は作らず、自分の体液で湿らせて治す」に変化した。 宮脇さんの不要な皮膚を剥がすと、生まれ変わったばかりの、か弱い薄ピンク色の粘膜が顔を覗かせた。
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