胸に咲く桜

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「この新しい皮膚はまだ柔らかくて弱いので、感染予防と保護のためにクリームを塗りますね。同じクリームを処方するので、家でもお風呂上がりにたっぷり塗ってください」 木ヘラでクリームを塗りながら、先生が柔らかい口調で言う。 「はい。・・・えっ?今日はこれで終わりですか?遠慮せずもっと切り落としちゃっていいのに~」 宮脇さんは、白いクリームに包まれていく傷痕を見つめながら明るい声を上げた。 「そんな一度に切ったら痛いよ?宮脇さんが痛いの好きならもっと大胆に切りまくるけど?」 「ええぇーっ!痛いのはイヤっ!」 「でしょ?続きはまた来週にしましょう」 目をぱちくりさせる宮脇さんを見ながら、先生は悪戯気にニッコリと笑った。 「それと、抗がん剤の件ですが、今まで使っていたタキソールを量を減らして、できるだけ連続で打つようにしていきたいと思っています。宮脇さんは副作用が強くて、通常の量を使うと今までみたいに休薬が増えてしまうので」 「・・・はあ。・・・量を減らしても効果があるんでしょうか?」 「少し前までは、その人の体重に合った量を使わなければ意味がないとされていましたが、最近、半量だとしてもどれだけ連続で使用できるかが重要で、効果は期待できると言う報告がありました。通常量の使用よりは緩やかな効果かも知れませんが・・・今まで通りの生活を続けられるように、なるべく身体に負担をかけない治療をしていきましょう」 胸もとの処置を終えた先生は、ブラウスのボタンをはめながら身体を起こす宮脇さんの背中に手を添えながら、そう伝えた。
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