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「解りました。先生にお任せします。私、できるだけ長く今と同じ生活をしていきたいんです。抗がん剤の副作用で寝たきりになって毎日苦しむのはイヤ。でも、抗がん剤を毛嫌いして早く死ぬのもイヤ。・・・わがままなおばさんでスミマセン」
宮脇さんは、遠慮がちに笑みを浮かべる。
「いいえ。当然だと思いますよ」
先生が頷きながら笑みを返す。
その瞬間、宮脇さんと目が合った私も大きく頷きながら笑みを向けた。
処置の後、宮脇さんの点滴をユリさんに託して診察介助に戻った。
全ての患者さんの診察が終わったのは午後4時。
まだ宮脇さん点滴してるかな・・・
診察室の後片付けをしながら、壁の掛け時計に視線を飛ばす。
最後のハーセプチンが終わる頃かな~。
さっさと片付けて宮脇さんとお喋りしてから外来に戻ろ~っと♪
掛け時計のある壁から視線を落とそうとした時、その視線を絶つ様に椅子から立ち上がる先生が目に映った。
「あっ、お疲れさまです」
私は反射的な挨拶を口にする。
「お疲れさま。・・・これ、宮脇さんに使おうと考えてる新薬。認可が下りるのは2月だけど」
先生は私の前に一枚の紙を差し出した。
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