愛しい光が消えるとき

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「いいえ……、前回の受診の時に御主人の付き添いをお願いしたんですけど。大学の教授先生だからお忙しいんでしょうか……」 首を傾げ、遠慮がちに苦笑いを溢す私。 「大学の教授先生ね~。……櫻井さん、石川さんの御主人の顔を見た事ある?」 「いいえ。一度も」 「だよね~。僕も手術の前日と当日に二回だけ。外来フォローになってからは一度も見ていない。普通さ、妻が再発したと聞いたら、一度くらいは検査の説明を聞きに来るでしょ?肝転移と肺転移だよ?心配じゃないのかねぇ」 ぼやきながら石川さんのカルテを開く先生。CTに映し出された肝臓内の白い影に目を凝らし、更なるため息を加えた。 「まあ、そんな夫婦は珍しくない気もしますが……特に男性は、仕事を理由に妻の受診に付き添わないケースが多いですからね。勿論、心配はしているでしょうけど」 「はぁ、今後の治療方針も伝えたいのに。……いいや、とにかく石川さんを呼んで」 マウスを操作しながら肝腫瘍の増大と新たな転移を確認した先生は、再び指をキーボードに移して私に指示をした。
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