愛しい光が消えるとき

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「○○にある緩和ケア専門施設。噂くらいは聞いた事あるんじゃない?」 「〇〇の専門施設って……」 「櫻ちゃん、もしかしてあそこじゃない?テレビでも時々紹介されるホスピス。建物は綺麗だし、中庭も広くてイベント事にも力を入れてるって」 ユリさんの言葉でその映像が頭に浮かんだ。がん終末期患者を受け入れるその施設では、患者と家族の気持ちを尊重し、家族も一緒に寝泊まりの出来る個室まで用意された専門施設。ホールではボランティア団体がイベントを行ったり、クラッシックコンサートなども楽しめるらしい。 「知ってる……私も特集を見た事がある。その患者と家族に合った和洋中のコース料理も食べられて、高級ホテル並みの待遇だって」 その分、入所費用と月々の支払いは一般病院とはケタ違い。富裕層をターゲットにしているとも噂される施設だけあって、ドクターもナースも緩和ケア専門スタッフを揃えていると聞く。 「そうそう、近いうちにそこへの転院を希望された」 「……だけど、そんな簡単に転院なんて出来ますか?ホスピス専門施設はどこも満床。一般病院の緩和ケア病棟ですら、数日待ちが出るくらいなのに」 無意識に掴んでしまった先生の白衣から手を放し、乱れた気持ちを落ち着かせようと深く息を吸う。 「それがさ、御主人はずいぶん前から転院を考えていたらしい。あの言い方だと、大学病院のお偉い先生に口利きして貰ったのかも」 「大学病院のお偉い先生?」 「ああっ、分かった!前回の転院騒動の時と同じよ。ほら、えっと……、何だっけ?御主人がお世話になったとか言う教授先生」 並んで立つユリさんは、眉間にしわを寄せる私の肩をバンバンと叩いて興奮気味に言う。 「……あぁ、あの時の」 名医だと驚いた記憶はあるが、教授の名前など忘れてしまった。何故なら衝撃を受けたのはそこじゃない。出戻りした経緯は有っても、私達を信用して石川さんの治療を任せてくれたのだと思っていたのに。 あれからずっと、今日までずっと、転院のチャンスを待っていたなんて…… 落胆のあまり言葉が出ない。
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