愛しい光が消えるとき

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「ありがとう」を伝えなければいけないのは、私の方だ。あなたは看護師として、一人の人間として大切な感情をたくさん教えてくれた。 「私は石川さんが大好きです」 窓の外を眺め、あなたは私に「忘れないで」と言った。けれど、心に深く刻まれたあなたの存在を、忘れるなんて出来る筈がない。 「あなたに出逢えた事に感謝します。お疲れさまでした……ありがとう、ございました……」 込み上げる感情で喉が詰まり、止めどなく流れる涙で声が掠れた。 愛する家族に見守られ、静かに消えていく一つの命。 「佐代子……佐代子ぉ……ウウッ……」 「母さん…母さ……ぅ…っ…」 愛する者を見送る家族は手を握り、体を擦り、受け入れざるを得ない別れに 涙を流す。 彼女の手を強く握ったまま動けない私は、 心の中で「ありがとう」と「お疲れさま」の言葉を、何度も繰り返していた―――。
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