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序章
薄暗い部屋の中、複数の人間による話し声がする。ほんの少しの距離を挟むだけで聞き取れないほど小さな声だった。
「新たな聖人の目覚め…」
「…ではアレは…だろう?」
「そうだな…アレは、もういらぬ…」
「速やかに…」
「速やかに、排除せねば…」
密談はその場にいる五人だけの間で行われた―――誰もがそう思っただろう。自分達ですら注意を払っていなければ聞き逃してしまう声を、まさか、壁を通して聞いている者がいるなどとは夢にも思わなかったに違いない。
普通であれば不可能なこと、だがそれを可能とする者も、いる。
闇に溶け込むような装束を身につけ、息を潜める男。
彼は密かな命を受け、最初からずっと話を聞いていたのだ。話し合いの場に存在しない主へと、その内容を伝えんとするために。
しかし頃合と見たのか、密談が終わるより前にその姿は消えていた。
主のもとへ…。
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