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バシッ!バシッ!
こうして壁当てをするのも久し振りだな。もう80球近くは投げたと思うけど…てか、それよりも…
ジィー―――……
さっきから何か視線を感じるんだよな。
ジィー―――……
やりづらいな。だいぶ疲れたし、そろそろあがるとしよう。
「もう終わっちゃうの?」
運動後のストレッチをしている時、一人の女の子に声をかけられた。
「まぁね、だいぶ疲れてきてたから。さっき覗いてたのは君?」
ストレッチを続けながら訊いてみた。
「ぁ、やっぱり気付いてた?…少し散歩してたら何か音が聞こえたから、ちょっと見てたの」
彼女はそう笑って答えた。
ちょっと可愛いかな…。
そんなことを考えた途端、恥ずかしくなって俺は少しどもりながら質問を続けた。
「さ、散歩ってことはこの近くに住んでるの?」
「うん。昨日引っ越してきたばかりだけどね」
「昨日?」
「そ。ぁ、ごめん。自己紹介まだだったよね。私、桜坂葵(おうさかあおい)です。よろしくね」
言い終わると同時に、葵さんは手を差し伸べてきた。
「俺は桐崎健吾です。よろしく」
そう言ってから俺も手を差し伸べ、握手を交わした。
この子との出会いが高校野球に足を踏み入れるきっかけになるとは、今の俺に分かるはずもなかった。
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