健吾の力

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 春休みも終わり、今日は高校の入学式。  と言っても俺が通うのは福島県皐月市弥生町(さつきしやよいちょう)にある弥生商業高校。俺の家も弥生町にある。つまり地元の高校。なので学年の約半分の生徒は顔馴染みだ。高校とは言えあんま変わった感がない。 「ぁれ?健吾君じゃん!おはよー!同じクラスだね」 「…!…葵さん?」  春休みに一度聞いた声の人物は俺の隣の席に座った。 「葵さんもここに入学?」 「何言ってるのもう!ちゃんとここの制服着てるんだから当たり前でしょ」 「ま、まぁ…そうだけどさ」  春休みに会ったきりだったけど、今考えれば年もちゃんと訊いてなかったな。同い年だったのか…。 「でも春休み中に越してきたんだよね?もしかして一人暮らし?」 「ううん。引っ越してきたのは親の仕事の都合で。引っ越した後のこと考えてここを受験したの」 「ふぅん、なるほどね」  どこから越してきたの?とか、引っ越しが受験に絡んだりして大変だったんだとか訊くこともできたけど、そろそろ集合の時間になるから訊かなかった。 「そろそろ時間なのに、あそこの席の人休みなのかなぁ?」  隣で葵さんが呟くように言ったので、その視線の先に目を向けてみると、窓際の列の一番前の席が空いていた。  出席番号はだいぶ後の方か。  そんなことを考えてると、教室の前の扉が勢いよく開いた。入ってきたのは長身でしっかりした体つきの男子。顔は…イケメン…。 「ふぅ~ヤベ、マジ焦った~。地元だからって油断してた~、危うく遅刻だぜ」  少しの笑い声が聞こえたが、彼は気にすることなく自分の席に着いた。 「ふふっ、何か元気な人だね。地元の人みたいだけど、健吾君知ってる人?」 「…うん、知ってるよ」  葵さんの質問に俺は弱々しく答えた。  彼の名前は瑞原巧(みずはらたくみ)。地元である弥生中学の元野球部キャプテン。ポジションはショートで4番を打っていた。実力は本物で去年の夏の大会では東北大会までチームを引っ張った。野球部を途中で辞めた俺とは全く違う選手だ…。  この高校には推薦で入ったらしいけど、ここの野球部、特別レベルが高いわけじゃないんだよな。どうしてここにしたんだろ? ガタガタッ! 「ほら健吾君、体育館に入場するから廊下に整列だよ」 「え?…あ、うん」  少しぼ~っとしてるうちに先生が来て話をし終わったようだ。  瑞原君の方を見ると少し眠たそうに欠伸をしていた…。
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