健吾の力

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「…じゃあ、今日はここまで!明日からは授業も始まるからしっかりな!」  担任の磯村先生の話が終わり、帰りのホームルームも閉じる。  帰り支度をしていると、隣から声をかけられた。 「健吾君、一緒に帰…」 「桐崎!一緒に帰ろうぜ!」  葵さんが何か言おうとしたのを遮って瑞原君の声が耳に届いた。 「帰るって瑞原君、野球部の練習は…?」 「ん?俺まだ野球部員じゃねぇよ?」 「え?…」  瑞原君のことだから、てっきり春休みのうちから練習に参加していると思ってた。理由を聞こうとした時、廊下から瑞原君を呼ぶ声がした。 「んぁ!大串さんだ!桐崎、お前も分かるだろ?一つ上の先輩、大串さん」 「…!!…う、うん」  大串さんは中学の時にセカンドを守っていた。瑞原君とも二遊間を守っていたから仲がいいんだろう。でも、俺にとっては…。 「悪いな桐崎!ちょっと行ってくるから待っててくれるか?」 「え?…あ、うん」  俺が返事をすると瑞原君は廊下に出て行った。 「何か本当に忙しい人だね。瑞原君って」 「うん…って、ごめんね葵さん、何か言おうとしてたでしょ?」 「ぇ?ぁ、そうそう。一緒に帰ろう…って言うつもりだったんだけど、瑞原君に先越されちゃった。はは…じゃあ私帰るね、バイバイ」 「え?どうせだったら三人で帰らない?もう少し待つことになるけど…」  立ち去ろうとした葵さんの足が止まる。彼女は振り返らずに返事を返す…。 「だ、だって何か私いたら邪魔っぽいし…」 「そんなことないって。それに先に話しかけてきたのは葵さんだったんだし」  そう言った途端、肩に誰かの腕が回ってきた。 「桐崎お待たせ~!見てたぜ、お前帰ろうとする女子呼び止めてたな?やるねぇこいつ!」 「な!…別にそんなんじゃないって!」  肩に回った腕を払う。前を見ると、葵さんが少し顔を赤らめてこっちを向いている。 「それより、瑞原君の用は終わった?」  とにかく早くこの状況を変えようと、俺は訊いてみた。 「あぁ、終わった終わった。早く野球部に来いって言われた。入部届出すのはもう少し後でもいいんだから、待っててくれてもいいのにな」  やっぱりおかしい。野球推薦でここに来てるんだから絶対野球部には入る。なのにわざわざ入部をギリギリまで延ばすなんて… 「どうしてまだ野球部に入らないの?…瑞原君はどのみち野球部に入るんだろ?…ならわざわざギリギリまで待つ必要はないんじゃないの?」
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