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少し語気を強めて訊いてみる。
何だか今日の瑞原君は少し変に感じる。朝、急に話しかけてきたことも、わざわざ入部を遅らせていることも…。
あまりに分からない瑞原君を見て、不安を感じた。そうしたら自然と語気が強まっていた
そして、瑞原君の返事はこんな俺をさらに混乱させるような内容だった…
「ん?…だって俺、お前と一緒に野球やるつもりでここに入ったんだぜ?…桐崎が一緒に入部しなきゃ話になんねーじゃん!」
「…え?」
今、何て言った…?
中学野球で、東北大会まで勝ち進んだチームの…キャプテンが。
野球名門高校からも声のかかる、あの瑞原巧が。
俺と…一緒に野球をするために、ここに…入学…?
「ち、ちょっと待ってよ!…何言ってるのさ、瑞原君だって分かるだろ?…俺は中学野球でさえレギュラーになれなくて、途中で部を辞める…情けない奴なんだよ。だから…」
クラスにはもう他の生徒は残っていなかった。俺達三人だけ。静まった教室に俺の声だけが響いていた…。
「それはお前がライトを守ってたからだろ」
「…!!…どういうこと…?」
「お前は覚えてないのか?…あの時、俺が言ったこと」
「あの時?…もしかして、二年前の…?」
「覚えてるじゃん!今からでも遅くはない!一緒にやろうぜ、野球をよ!」
時は約二年前にさかのぼる…
その日は春休み最後の練習日。当時の俺は中学一年生。練習後の片付け当番だった俺と瑞原君は二人で片付けをしていた。
当時から瑞原君は実力を発揮していて、約半年前の新人戦でもレギュラーとして活躍していた。瑞原君はこの頃から既に俺にとっては遠い存在だった。
片付けも一段落着いた時、瑞原君に声をかけられた。
「おぉ~い桐崎!ちょっとピッチャーやってくんない?…一打席勝負しようぜ」
「え?…いや、だって俺ピッチャーでもなんでもないライトだよ?」
「いいって、いいって。部活じゃないんだから、草野球のつもりでさ」
そう言った瑞原君は満面の笑みを浮かべている。心底野球が好きなんだと思う。同じ野球好きなら断っちゃいけないと思った。
「よっし!じゃあ一打席だけ勝負しよう」
「勝負は一打席!…フォアボールやデッドボールはカウントゼロからやり直し!…それでいいな!桐崎!」
瑞原君が右打席に入り、マウンドの俺に向かって声をかける。俺も黙って頷いた。
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