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「さぁて…お手並み拝見といくか」
瑞原君が小さく呟いた。俺にはよく聞こえなかったけど、俺は気にせず投球動作に入った。
右足を後ろに引き、両腕を頭の上まで振りかぶる。それら一連の動作を自分がイメージした通りに動かす。そして左腕を思い切り振り抜いた。
バシッ!!
ボールはバックネットのコンクリ部分に当たって跳ね返った。
「外角低めギリギリのストライクだったな。いい球放るじゃん!桐崎!」
「まあ、たまたまだよ。コントロール重視でスピードも抑えてたしね」
「そうか?…それにしては早く見えたけどな。ま、いいや。次来い!!」
俺は頷いて2球目を投げた。
キンッ!!
鋭い打球がファーストベースのすぐ脇を抜けていく…
「くぅ~、ギリギリファールか…上手く流したと思ったんだけどな~。予想以上に球威があったか?」
危なかった…。
さっきと同じギリギリのコースをついたのに、たった一球で合わされた。さすがにレギュラーなだけある…。
「よし、じゃあ次行くよ!」
今度は俺から声をかける。瑞原君は黙って頷いた。
カウントはツーナッシング。
内角低めに投げて三球勝負だ…!
俺はコースめがけて投げた…
カキィン!!
ボールは誰もいない外野に飛んでいった…。
「左中間真っ二つのツーベース…ってとこか。俺の勝ちだな」
完璧に打たれた…やっぱ俺みたいな奴の球じゃ抑えられないか…。
「お~い、桐崎!もう1球投げてくれよ!」
「…え?」
「今までのは抑えて投げてたんだろ?…だから今度はコントロールなんか気にしないで思いっきり投げろよ!」
「思いっきり…」
俺の本気の真っ直ぐなんて、大したことはないと思うけど…コントロールじゃ打ち取れなかったんだ。1球だけでいいから、本気で投げたいと思った。
「じゃあもう1球だけ、思いっきりいくよ!!」
「よし来い!!」
俺はストライクゾーンを狙って、思いっきりストレートを投げた…
ガギィッ!!…ガシャン!!
鈍い金属音がしたと思ったら、次の瞬間にはボールがバックネットに当たっていた。
「ファ、ファール…?」
そう口にした時、遠くから先生の声がした。
「おい、瑞原!!桐崎!!…遊んでないで、さっさと片付けて帰れ!!」
「分かりましたー!!」
二人で声を合わせて答える。
「ちっ!せっかくいいところだったのによ~」
「仕方ないよ。早く片付けて帰ろう」
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