4人が本棚に入れています
本棚に追加
暗く閉ざされた場所がある。僕はその場所が酷く湿気って居て好きだ。
鍵が閉まったその場所にはいつも窓から見える人影がある。
その人影は夜になると活動的になるらしい。
僕は凄く惹かれていた。
その不可解な出来事も愉しくて仕方がない。
いつも暗いその場所を気にしながら毎日過ごしている。
僕は地味な中学生だ。友人は居るが皆から気味悪がられている。
でもそんな事は何も問題ではない。
つまらない日常に関わりを持ってもつまらない事には変わりは無いからだ。
不満だから誰も信じないことにしている。
クラスメートの自慢話なんて子供染みていてくだらない。
君達そんな話で良くケラケラゲラゲラと笑えるな。
そう胸の中だけで吐き出す。
今日は少し機嫌が良い。
何故なら今日は二時間目の授業であの理科室に行くことが出来るからだ。
小声で喜びの言葉を僕は唱え続ける。
チャイムの音がなり漸く訪れる幸せな時間。
ドアに手が触れただけで心が踊る。
この理科室の独特の雰囲気と匂いが堪らなく好きだ。目眩がする。
教室の机や椅子と違った形の机や椅子がまた新鮮で嬉しくなる。
今日は授業どころでは無い。
この空間の哀しくて寂しい感じを記憶するのに必死だから。
皆はアルコールランプを使った実験に目を輝かせるが、僕はそれどころでは無い。
決まって理科室では白衣を着る先生が、いつも憎らしいのに今日は羨ましい。
時間は過ぎて行くのに焦りながら僕はただその空間を味わう。
窓の外は雨がしとしとと降り、次第に皆テンションが落ちていくのに僕は違う。
誰よりこの空気を愛しく思えた。
たったの一時間も満たない時間。
残酷なチャイムが鳴る。
授業が終わると決まってすぐ先生から理科室から追い出される。
不愉快だ。不愉快。
当分理科室での授業は無い。
存分にいろんなものに触れてみたいけどそうもいかない。
その日は1日中雨で終わった。
僕は一人今日の事を振り返る。
あの匂いは病みつきになるのにすぐ思い出せなくなる。
まだあの理科室の中知りたいことが山程ある。
時間が過ぎて行けば行くほどあの理科室にもう一度行きたいと言う気持ちが大きくなり押さえられなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!