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暗闇に空が浮かんでいる。
どんな光でさえ、輝きたくない漆黒がそこにはあった。
暗いのではない、ただ単純に闇。
そして静寂。
これ迄、表情を変えながら、幾重にもその時代を目にしてきた空が、今また築かれる“歴史”を見ることにしたようだった。
…その幕開けを、何も言わずに。
しかし、静が、文字通り音を立てて崩れる。
風を叩く音は凄まじい存在感で辺りをつつんだ。
そして、その音はみるみる内に大きくなっていく。
しかし一機ではない…複数の交響曲。
耳を劈き、空を揺らす轟音は、遂に姿を現したのだった。一瞬は理解の範疇を超えたそれも、直に全貌が明らかになり、その鯨の様な図体が露になった。
だが、姿は鯨なんかに到底似つかない物と分かる。
オリーブドラブ(深緑)にくすんだ鉄の肌。
大きな翼が取り囲んだ胴体に、何より目立つ…マーク。
円で囲った白い星。
連合国…中でも、アメリカ軍のマークだった。
この複数の“空飛ぶ鯨たち”…否、この際、正式な“彼ら”の名をちゃんと呼ぼうか…。
この複数のC47全てに、そのマークが付けられ、群れになって暗い空を埋め尽くす。
何十機という飛行機には、それぞれ大事な“捨て駒”が十数人積まれていた。
その捨て駒の一人が、ある隊にいたのである。
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