オーバロード

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∴此より、日本語表記を小説中の英語に、括弧内の日本語表記をドイツ語とし、物語を進めて行きます。∴ 第502歩兵連隊 第82空挺師団 A中隊・第二小隊・第一分隊の彼はその名を、 アリス・ジャック・ポールという。 階級は一等軍曹。つまり、隊の中では一番の権限を持った兵士なのだ…将校を除けば、だが。 又、機内の隊員たちは、ほとんどが彼の部下であり、12人が思い思いの表情でその時を待っていた。 それぞれが中に響く轟音に耐え、今迄やってきた辛い訓練を思い起こす。 プレス加工の鉄のヘルメットを上瞼に合わせて深くかぶった彼は、その鋭い目を閉じていた。 身体には、実に60ポンドのリュックが背負われているだけでなく、更に35ポンドが胸に。55ポンドが脚にそれぞれくくり付けられている。 分かりやすくキログラムに直すなら、約70キログラムと言った所だ。 自らの体重を背負った様な重さは、座ったとはいえ大臀部に極大な負担が掛かっているのだ。 しかし、それを忘れてしまいそうな腐った緊張感が胸を響かせて、瞳孔を抉じ開ける。 そして目を開いたその縁に、彼は暗闇に光る赤い物を見つけた。 レッドランプ。 この機にいる中の一番の偉い方が立ち上がった。 丁度、ジャック軍曹の右隣りだ。 皆がそれに気付き、一瞬にして顔が凍り付く。 「フック準備!」 機内に充満する爆音を書き消す怒声は、皆の耳に届いた。全員がパラシュートのフックを胸の前に掲げ、隊長に見える様にする。 ジャックも例外ではなかった。 隊長はそれを見て、訓練と同様に声を張ったのである。
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