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静まった馬小屋の中、壁にもたれたジャックは、装備を体につけて軽歩兵の標準の恰好に近づいて来たジョン伍長が、暗い雰囲気に包まれた言葉を発した為、不意を突かれた。
「軍曹…無事に降りた工兵は、自分だけです。」
「…。」
「…自分が飛んだ後に、自分の機が炸裂弾にやられて、火をあげながら堕ちていきました。
他の飛行機に乗った奴も、無事に飛んだのを見てません。」
「―なら、そう本部へ報告しろ。
さぁ、行くぞ。」
―――Yes,sir.とだけ返事をしたジョンは立ち上がる。
そして、要らないバッグを小屋の隅に投げた後、ジャックのひざ元に座った。
親指でヘルメットを上げ直すと、目の前にハンドガンが見えてジャックを見る。
「M1911だ。使ったことは?」
「あ、ありますが、基礎訓練以来です。
…否、それ以前に、自分は工兵です。銃なんて、。」
「今は工兵とか歩兵とかなんて関係ない。とりあえず本部まで行かなきゃならん。」
慌てるジョンを尻目に、ジャックは胸のホルダーからコンパスを出して方角を調べた。
キョロキョロと周りに目を配り、暗闇に向かって歩き始めると、ジョンもその後ろについてくる。
ジャックは鋭い眼光で警戒しながらも物音を立てないように草を踏み締め、ゆっくり歩いた。
二人ともが黙ったままで、ドイツ兵を捜す。
…捜してはいるが、“見つけないように”捜すという複雑な心境がそこにはあった。
闇の中に、また建物が映り込み、さっきのよりは大きいと分かる距離にまで近づいて、ジャックとジョンは屋根の淵から垂れ下がる人影を見上げる。
アメリカ兵だった。
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