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「マクドナルドのコーヒーはこの世で一番まずい飲み物の一つだ」 うさぎは今日も荒れていた。僕はレンの家を出た後、そのまままっすぐに《巣》には帰らなかった。何しろヘロインを打った後なので、自分が今何をしているかなんて、何処に向かっているかなんて、全く分からなくなってしまっていたのだ。どうやってここにたどり着いたのかも記憶が曖昧だった。車に乗ってきた。名前も顔も知らない、赤の他人の車だ。 「あんな犬の小便みたいなものに金を払わせやがる。俺は物凄くコーヒーが飲みたかったんだ。これまでにないくらいにだ。そういう時に限って、何処にもカフェやら何やらが見付からねえんだ。だから仕方なくマクドナルドに入った。別に入りたくもなかった。あそこにはしょっちゅう鼻の穴と穴の間にでっかいリングをはめたような、訳の分からない連中がたまってやがるから。仕方なく俺は入ったんだ」 「訳の分からない連中ってさあ、ひょっとしてあいつらの事? なんか腕にさあ、英語でプッシーって入れ墨してる奴がいるグループ。あいつまるで牛みたいにさあ、鼻にでっかいピアスしてるんだ」 「そいつの事はよく分からねえよ、狐。しかしどいつもこいつも気に入らねえ面した連中だった。俺はチーズバーガーにポテトにコーヒーを頼んだんだ。でも今思い出すとなかなかいい女だったな、あの店員」 そこまで話し、入口にもたれ掛かり焦点の合わない目をした僕に顔を向ける。 「鼠か、遅かったな」 鼠、というのは僕のあだ名だ。本当の名前だってもちろんある。しかしそんなものは忘れてしまった。きっとみんな忘れてる。
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