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「悪かったよ、遅れてさ」
僕はそのままよれよれと進み、少しの所で地べたに寝転んだ。
「もうハイになってるのか?」と一番近くにいた羊が言った。
僕は天井を眺め、ゆっくりと瞬きをした。全てのものが揺れている。全身に力が入らない。しかしラッシュは既に過ぎ去ってしまっていた。この素晴らしい快感も、やがて消えてしまうだろう。
「鼠、何もやらかしてないだろうな?」羊が僕の顔を覗き込む。
なにがー? 僕は笑いながら言う。何が可笑しいのか、自分でもよく分からない。それよりさあ羊、煙草くれよ。俺メンソールは嫌だよ、ちゃんとしたさあ、普通のさあ、薄荷が入ってないやつ。
「アメリカンスピリットでいいか?」
羊が煙草に火を付けて一度だけ自分で吸い、よだれを垂らした僕の唇に挟んでくれる。
「最近はやたらと警察が動いてるからな。お前も知ってるだろ? ここらで殺人事件が起きたってよ、変な騒ぎ起こしたら俺達まで疑われるんだからな」
僕は煙草を吸い、少しずつ視界の焦点が合う事に寂しさを感じた。
「あ、俺盗みをやったよ。車を盗んだ。俺車は全く知らないから車種はよく分からないけどさ、なんか高そうな車だったな。あちこちにぶつけちゃったけど」
羊はやれやれと言ったように首を振り、ちょっと見てくると言って出て行った。
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