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《蜘蛛の巣》は街の本当に目立たない一角に佇む廃工場で、うさぎは一年前にここを隠れ家とした。暗く、広く、静かで、どこかに巨大な蜘蛛が毛むくじゃらな脚をかさかさと動かして気配を消しているかのようで、誰も集まっていない時なんかは、この場所に来ようとは思わない。街の色んな民家や店や路上から、様々な物や食べ物を盗んでは運んできた。壊れたり壊れかけたりしていた箇所はみんなで修復した。業者を締め上げ、少しばかりの金を渡してやり、電気も通るようにした。半年程かけて、《蜘蛛の巣》は糸を張り巡らし、完成した。 「俺は機嫌が悪かったが、大人しく喫煙席へと向かったんだ。煙草が吸いたくなってな」 うさぎは声を荒げて話し続ける。彼はリーダーだ。僕達にあだ名を付けたのも彼だ。みんなに信頼されてるのかというと、実の所そうではない。彼は仲間内で喧嘩が一番強かったし、我が儘だった。独裁主義者だ。筋肉の発達した太い腕には、目から血を流した兎のタトゥーが入っている。 うさぎだけじゃない、僕達はお互いに誰の事も信頼などしていない。みんな互いの本名さえ知らないし、知ろうとも思わない。そんな僕達に、一体全体どのようなものが脆い絆を与えたのだろう。答えはみんな知ってる。ドラッグだ。
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