序章

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僕は奇妙な夢を見ていた。ただ所々が、たとえば音や臭いがやけにリアリティーだったから、僕はそれを夢だと判断するのにしばらく時間が掛かってしまった。 次々に崩壊していく巨大なビル群。破壊の音が聞こえる。僕はその音を聞いて安心した。世界にはもっと大きな音が必要だと思った。この世界は静か過ぎるから。 いいぞ! もっとだ! もっと! 松葉杖をついた老人が、崩壊していくビルに向かって叫んだ。もっとだ! もうこの世界には未練はない、音を立てて崩壊しろ! 僕はその老人の金切り声が気に入らなくて、彼の松葉杖を無理矢理奪い取って思い切り顎を殴って黙らせてやった。老人は血を流し気絶した。 近くのタンクローリーが炎上した。オレンジの炎が暴力的に燃え盛る。僕はその炎の中に飛び込みたいと思った。炎は僕の体を優しく包んでくれるだろうと思った。暖かいんだろうな、もう寒気を感じる事はないんだろうな、そう思った。 横転し大破したタンクローリーをのぼり、炎の中に入る。僕の体は一気にオレンジの炎に包まれた。 やはり暖かった。自分はこの暖かさを今まで求めていた気がした。だけどそのうちに、少し熱すぎると思うようになった。一度思い始めると止まらなかった。熱かった。 近くで僕を見ていた二人の女の子が何やら言い合っていた。見て、あの人ったら燃えてるわ、時代遅れよ、ただ熱いだけなのにね、そのうち水が欲しくなるよきっと。 その通りだった。熱かった。僕は水が欲しかった。体は熱を帯びていて、喉の奥は激しく渇いている。
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