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僕は鉄の塊のように重い頭を起こし、玄関に行き靴をはく。赤いコンバース。
「頭が痛いよ。でもきっと《巣》に帰ったら今日もまたドンチャン騒ぎなんだろうなあ。俺酒に強くないんだよ。まず未成年だしさ。本当は飲んじゃいけないんだよな。憂鬱だなあ」
「いまさら何を言ってるのよ。大体クスリだって年齢には関係なく法律違反なんだから」
レンは部屋のテレビの画面をつまらなさそうな顔で眺めていた。テレビでは何かの音楽番組がやっていた。古きよき洋楽特集。
「ニルヴァーナじゃないか。すごく古いけど、かっこいいよ、これ」
ロック、今はもう全て過去の遺物となってしまっている。流行りの音楽といえば訳の分からない機械音が延々と続く何とかいうジャンルのものだ。そんな雑音は音楽とは呼べない。それらを聞いて喜ぶ連中を僕は馬鹿だと思う。曲の終わりに番組のナレーターの声が入る。
ニルヴァーナで、『カム・アズ・ユー・アー』でした。ロックバンド、ニルヴァーナ。彼らの音楽は今なお古臭さを感じさせません。
「なんだか苛々するわよねえ。こんな中途半端に寒い日は特に。あなたもそうじゃない?」
「そうだな」
「あー駄目、私もう無理よ、限界。ねえ、帰る前に一発キメてく?」レンの手に握られた細い注射器。少しだけ開けられた窓から空を見上げると、どんよりと曇った灰色の空だった。
カート・コバーン、彼は常にロックであり続けたのです。彼の精神は今なお、生き続けているのです。
僕は空を見るのをやめ、再びレンの方を見る。レンは既にハイになり始めていた。
「ねーえ、すっごくきもちいいよー、これえ。あんたもさあ、やりなよー、ほんと、きもちいいからあ」
僕は赤いコンバースを再び脱ぎ、部屋に戻る。
彼らの音楽が死ぬ事はないのです。ロックは不滅です。ニルヴァーナで、『スメルズ・ライク・ティーン・スピリット』。
「あー、れもさあ、もうクスリはやらないんらっけー」
僕は時計を見る。仲間達が集まるまでにまだ時間はある。その前に景気付けの一発を。
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