テーマ『花』

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日が沈み辺りを暗闇が支配し始め、月明かりだけがぼんやりと辺りを照らす。     獣の鳴き声だけが響き渡る人里離れた山の奥に男は居た。     ソメイヨシノが咲き乱れ満開の桜色に染まる景色の下、赤い盃片手に酒を飲んでいる。    「月明かりの下夜桜とはまた風流よな…そう思わんか…楓?」    赤地に黒の着物を着流しにしてすぐ脇に刀と脇差し、そして酒の入った瓢箪を置いていた。    桜の花びらがひらりひらり、男の持つ酒の入っている盃に舞い落ち浮かぶ。    「ふふ、桜酒か…歓迎してくれておるのか?」      桜はその下に死体が眠っているから綺麗に幻想的に咲き誇ると聞く。    『もしも…だぞ?楓が死んだら桜の木の下に埋めて欲しい…毎年綺麗な桜の花をたっくさん咲かせてやるから…兄上が毎年見にきてくれる様に―― …なに!?他の女子を連れて来るのは断じて許さぁん!!』    糞医者がっ!なにが金さえ払えば治すだ!…救ってやれず…すまん…今年は泣かぬと決めたのだが許しておくれ…    大粒の涙の雫がいくつも頬を伝う。    風が吹き桜の花びらが男の周りにだけ舞い落ちる。    まるで男を優しく抱きしめるかの様に…
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