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「っ…太助!?」
いつもは滅多に触れてこない太助に戸惑う久美。
最初は訳が分からず慌てたが、彼の顔を見た瞬間凄まじい後悔に襲われた。
まるで迷子の子供のような表情。涙こそ流れてないが、彼の端正な顔は悲しみに歪んでいた。
「………ごめん、太助…、私は違うから…お前から…離れないから…」
そう囁いて久美は太助の背に腕をまわし、優しく撫でた。
彼が何より怖がっているのは孤独。知っていたつもりでいたが、それを軽く見ていたらしい。
久美は先ほどの自分の気持ちを悔いた。
「…くみ…」
「ん…?」
「お前は…お前だけは…俺を拒絶してくれるな…」
「……うん…」
「ごめん」とまた最後に呟いた後、久美はようやく太助から離れた。
「あ~…と、さっきは男が怖いとか言ったが…もう平気だ。まぁ、一応太助も傍にいるしな。うん。じゃ、行くとするか」
気持ちが吹っ切れた久美は、太助から主導権を奪い取り、彼の腕を引っ張って目的の部屋に向かう。
「く、久美!ちょっ…」
彼女の言葉、行動に、さすがの太助も狼狽えた。
更に久美からグイグイと引っ張られるものだから、つまずきそうになる。
そして、ようやく生徒達の待つ部屋に辿り着いた久美と太助。
しかし久美はすぐに引き戸を開けず、意思の強い瞳で太助を見上げた。
「どうし…」
「この先でもし」
「は?」
「さっきの男と同じ態度を取られたとしても」
さっきの男とは、もしや杉山のことを言っているのだろうか。
しかし何故?
彼女の言いたいことがさっぱり読めずにいると…
「いちいち傷つくな。いつもの性格の悪いお前のままでいろ」
その言葉は衝撃だった。
「…っ」
ヒュッと息が詰まり、唇が震えた。
「分かったな?」
彼女はそれだけ言うと、ガラガラと引き戸を開けた。
久美が先に部屋に入っていくのを見届け、太助は熱くなる己の顔を右手で覆った。
「まったく…」
どこまで惚れさせれば気が済むのか…
そう、太助は困ったように笑った。
そして顔の熱が冷めるのを待ち、彼女を追って中に入った。
白虎隊の少年達が待つ部屋の中へと。
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