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不気味なほどに、部屋の中はシンと静まり返っていた。
怪訝に思い少年達を見渡せば、彼らは皆、青い顔で口をつぐんでいる。
そして彼らの視線の先には…
「何やってんだお前…」
鬼気迫るような険しい表情で、仁王立ちしている久美の姿があった。
「いやほら、舐められないようにって」
「威嚇かよ」
「始めが肝心っていうだろ」
「あのなぁ…」
ひとつ溜め息をついた太助は、少年達に睨みを効かせている久美の頭をバシッと叩く。
「いっ…た…!何をする!この馬鹿!」
「そりゃこっちの台詞だ。怖い顔するんじゃない。コイツらが脅えてんだろ」
「私だって脅えてる!」
こんなに沢山の男を前にしたのは初めてだ!
なんて久美が叫ぶものだから、太助は強い脱力感に襲われた。
「だったら腕を組むな腕を!仁王立ちもやめろ!そんなんで脅えてるなんて言ったって納得できるか!」
「なんだとぉ!」
少年達をそっちのけで、バチバチと火花散らす二人。その時、「プッ」と誰かが吹き出したのを始め、ところどころで談笑が沸き起こった。
「アハハハ!面白い…!息ぴったし!」
「そうそう、最初は怖いかなぁって思ってたけど」
「思ってたよりずっと若いし、親近感わくよな!みんな!」
「ああ!」
パチクリと目を丸くする太助と久美。そんな二人の前に、一人の少年が進み出た。
「初めまして。僕は酒井峰治と言います。先生からは話は聞いておりました。殿の側近であられる方直々に教えを請えるなんて、自分達は光栄に思います」
「あ、俺も俺も!ちょっ、峰治!テメェ一人だけ抜け駆けずりぃんだよ!」
峰治を筆頭に、他の少年達も太助達の周りに群がる。
「ねぇ太助様!太助様を先生とお呼びしてもいいですかー?」
「凄く剣が強いって聞いてます!後で手合わせお願い出来ますか!?」
「そちらの綺麗なお姉さんは何てお名前ですか?」
「馬鹿!俺達は女人と言葉を交わしては駄目だと…!」
「大丈夫だって。さっき杉山先生が許可して下さったんだ」
「本当か!?やった!俺、母さん以外の女性と口きくの初めてだ」
「せんせーい!」
一斉の質問攻めの間、太助はただただ呆気に取られていた。
杉山と同じく気を遣われるか、怖がられるかと思っていたからだ。それなのに…
(なんだこの軽さは…)
対応に困ってしまい、助けを求めて隣を見れば、久美が可笑しそうにくすくすと笑っていた。
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