597人が本棚に入れています
本棚に追加
「要らぬ心配だったな」
ひとしきり笑った久美はそう言った。その言葉の意味を知った太助の頬に、薄く朱がさす。
「…先生?いかがなさいましたか?」
「顔が赤いですよ先生」
「いっ…いいから!見るな!ほらお前達、そろそろ離れてくれ。これじゃ話も出来ないだろ」
「はーい!」
一斉に少年達は離れると、腰を降ろして姿勢を正した。
やっと静かになったものの、少年達にキラキラと輝く目を向けられ、太助は居心地が悪そうに顔を逸らした。
(ま…眩しい…)
少年達の純粋な心が。
(俺にもこんな時期があっただろうか?)
いや、ない。
自分で言うのもなんだが、我ながら可愛くない子供だった。
「なるほど。まるで邪心が洗われるようだな、太助」
「そう邪心が…ってオイ」
「私、男の子の見方が変わりそうだ。そうか、こっちが本物なのか」
「ちょっと待て」
それはどういう意味だ。
「身近な男っていったら、お前しか知らなかったもんなぁ私。ハァ…、なんか損した気分だ」
「そ、損だと?おまっ…」
失礼極まりないだろ!
しかし、上手い言い訳が思い付かない。確かに、ここの少年達が年相応というのなら、彼女の気持ちも分からなくはない。
自分がもし女だったら嫌だ、こんなひねくれた男は。
「あー…聞け、お前達」
これ以上考えると落ち込みそうなので、太助は久美との会話を絶ち、次に少年達へと話しかける。
「一応紹介しておくが、コイツの名前は久美。これからお前達に砲術を教える講師だ」
久美がよろしくと頭を下げると、少年達も照れ臭そうに挨拶を返した。
「あと…まぁ…たぶん無いと思うが、コイツには絶対手を出すなよ」
「無いとは思うは余計だ!」
「お前はちょっと黙ってろ。…つまり、久美は殿の姉君、照姫様の侍女だ。もしコイツに何かあったら、その時はそいつの首が飛ぶからな。心得とけ」
太助の忠告に、今まで浮かれていた少年達の顔が一気に青ざめる。
その様子を見て、太助は満足げに口端を吊りあげた。
これだけ牽制しておけば、久美も身は安全だろう。
しかし隣の久美はというと、不機嫌そうに眉をひそめていた。
「さんざん私には脅えさせるなって言ってたくせに…」
「俺は事実を言ったまでだろ」
「…やっぱり性格が悪い」
「何を今さら」と、太助は鼻で笑う。
そして二人は挨拶を済ませると、さっそく各々の授業へと取りかかったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!