ふれあい

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「要らぬ心配だったな」 ひとしきり笑った久美はそう言った。その言葉の意味を知った太助の頬に、薄く朱がさす。 「…先生?いかがなさいましたか?」 「顔が赤いですよ先生」 「いっ…いいから!見るな!ほらお前達、そろそろ離れてくれ。これじゃ話も出来ないだろ」 「はーい!」 一斉に少年達は離れると、腰を降ろして姿勢を正した。 やっと静かになったものの、少年達にキラキラと輝く目を向けられ、太助は居心地が悪そうに顔を逸らした。 (ま…眩しい…) 少年達の純粋な心が。 (俺にもこんな時期があっただろうか?) いや、ない。 自分で言うのもなんだが、我ながら可愛くない子供だった。 「なるほど。まるで邪心が洗われるようだな、太助」 「そう邪心が…ってオイ」 「私、男の子の見方が変わりそうだ。そうか、こっちが本物なのか」 「ちょっと待て」 それはどういう意味だ。 「身近な男っていったら、お前しか知らなかったもんなぁ私。ハァ…、なんか損した気分だ」 「そ、損だと?おまっ…」 失礼極まりないだろ! しかし、上手い言い訳が思い付かない。確かに、ここの少年達が年相応というのなら、彼女の気持ちも分からなくはない。 自分がもし女だったら嫌だ、こんなひねくれた男は。 「あー…聞け、お前達」 これ以上考えると落ち込みそうなので、太助は久美との会話を絶ち、次に少年達へと話しかける。 「一応紹介しておくが、コイツの名前は久美。これからお前達に砲術を教える講師だ」 久美がよろしくと頭を下げると、少年達も照れ臭そうに挨拶を返した。 「あと…まぁ…たぶん無いと思うが、コイツには絶対手を出すなよ」 「無いとは思うは余計だ!」 「お前はちょっと黙ってろ。…つまり、久美は殿の姉君、照姫様の侍女だ。もしコイツに何かあったら、その時はそいつの首が飛ぶからな。心得とけ」 太助の忠告に、今まで浮かれていた少年達の顔が一気に青ざめる。 その様子を見て、太助は満足げに口端を吊りあげた。 これだけ牽制しておけば、久美も身は安全だろう。 しかし隣の久美はというと、不機嫌そうに眉をひそめていた。 「さんざん私には脅えさせるなって言ってたくせに…」 「俺は事実を言ったまでだろ」 「…やっぱり性格が悪い」 「何を今さら」と、太助は鼻で笑う。 そして二人は挨拶を済ませると、さっそく各々の授業へと取りかかったのだった。
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