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その夜、容保の部屋を訪れた照姫は、彼に酒を注ぎながらあることを尋ねた。
「…容保。そなたはなぜ、太助と久美を選んだのじゃ?」
「ふふ…。姉上は、可愛い侍女を取られて不満と見える」
「いいや?確かに、心配ではないと言えば嘘になる。じゃが、太助が一緒なら久美も安心じゃろ」
「そうですか…。貴女にそこまで信用されている太助は果報者ですね」
「そなたは昔から、隠し事をする時、いつも話を逸らそうとする。容保、この姉の目を見て、包み隠さず本当のことを申せ」
こちらを心を見透かした姉の言葉に、容保は参ったと苦笑を漏らした。
「まったく…、姉上には敵いませぬな」
彼は盃を床に置き一息つくと、真剣な表情で話を切り出した。
「とうとう二本松口までもが、新政府軍の手によって落ちました」
こうして会津の国境は、新政府軍に次々と攻められ、そして破られていく。
「これからの戦局は…ますます激しくなるでしょう」
このままでは、近いうちに、この会津の街も危ないだろう。
「力が…欲しいのです…」
会津の民達を護る、力が欲しかった。
少年達で結成された白虎隊は、本当は予備兵力であったが、今はもう、彼らの力も必要となった。
「本当は私も…まだ子供の少年兵を…戦場に立たせたくなかった…」
しかし、玉砕覚悟で挑まなければ、この戦は勝てない。
「ほう。それで?子供達を捨て駒にするのかえ?」
「…逆です。子供達には死んで欲しくない。ゆえに、太助を白虎隊へと送ったのです」
太助なら、必ず少年達を強くしてくれる。強くなればきっと、戦場でも生き残ることが出来る。そう容保は信じていた。
「そうであったか…」
照姫は、嫌味を言ってしまったことを詫び、次に優しい微笑みを浮かべた。
「兵達は皆、会津とそなたを護る為には、命も惜しくないと言っておる」
「………」
「妾にもよく分かる。そなたは、命を賭けて護る価値のある男じゃ」
「姉上…」
「白虎隊は大丈夫じゃ。太助と久美がついておる」
「はい…」
義姉の温かい言葉に、容保は胸が熱くなるのを感じた。
民にも、部下にも、家族にも、自分はこんなにも恵まれている。
だから自分も、命懸けで護ろうと思う。
この愛する会津の国を。
そして8月。
この頃すでに、会津はもう後のない劣勢を強いられ、とうとう白虎隊をも出陣させることに決まった。
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