しあわせ

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その頃、会津の城下町では、女達が主役となって激しい銃撃戦を繰り返していた。 男の殆んどが戦地に向かい、城を離れた為だ。 誰が死んだのかも確認する暇もなく、彼女達はひたすら新政府軍相手に闘った。 薙刀を扱う者、銃を扱う者、そして怪我人の手当てをする者、それぞれの役割を持って。 「みんな伏せて!弾に当たるわ!」 「久美ちゃん!あなたも…っ」 「私は構わない!当たる前に…当てる!!」 そして久美も例外なく、城を護る為に銃を取った。 城に近づいてくる敵兵を、百発百中の命中力で撃ち倒していく。 城に集まった女達は、そんな久美を頼りにして、怪我人の手当てに勤しんだ。 「太助…」 久美は緩む涙腺を必死に堪え、その目はひたすら敵を睨み付ける。 太助は無事だろうか。生きているだろうか。そんな思いばかりが胸を過った。 (本当は…分かってる…) 彼と交わした結婚の約束なんて、ただ気休めに過ぎないのだ。 戦争はそんなに甘いものではない。それこそ、親兄弟の生存すら確認出来ないほどに。 己の家族、愛する者の死を看取れた女性は、無に等しかった。 (それでも…) 頑張れる力が欲しかった。 生きていく力が欲しかった。 (あの時の…太助との約束があるから、私は今、闘える。皆を、護れるんだ) 望むなら、生きて太助と再会を果たしたい。それだけを胸に秘め、久美は次々と敵を討ち続けた。 一方、太助率いる班も、城に向かって進んでいた。 城の方角から煙が見えたからだ。 太助は激しく鳴る心臓を押さえつつ、少年達を率いて山道を駆けた。 (久美…!) 久美…久美久美久美ぃ!! 胸を襲う焦燥感に、太助は唇を強く噛み締める。 戦いの場において私情を挟むなどと、隊長補佐あるまじきことだった。 しかし止められない。 彼女に危機が迫っている。そう思ったら居ても立ってもいられなかった。
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