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「太助ぇ!」
信じられなかった。
彼女が生きていて嬉しい。だが、単身でやって来るなんて自殺行為だ。
久美は、城から太助達の姿を捉えた為、慌てて降りてきたのだった。
「太助!みんなぁ!」
触れらるほど距離が縮んだ時、久美は勢い余って転びかける。
太助はすかさず彼女の身体を支え、そのまま強く抱き締めた。
「久美…」
そんな彼の背に、久美も腕をまわして抱きついた。
「……温かい…生きてるん…だな…」
「見れば分かるだろ」
「っ…わた…し…は、…もう…会えないかと…」
「……馬鹿が」
そう言って、より強く抱き締める太助。
「久美さん、よくご無事で!」
感極まった少年達も、久美に抱きついていった。
まるでその様子は、母親に甘える子供のようだ。
「みんなも…生きてて良かったよ…」
「久美さん…」
「聞いてくれみんな。まだ城には生き残ってる人達が大勢集まってる。お前達は早く城に帰って、みんなを護ってくれ」
「はい!」
少年達はパッと顔を輝かせると、最後の力を振り絞って城へと向かった。
「久美、お前も戻れ。また敵が来たみたいだ」
その場に残された太助は、同じく残った久美にそう言う。
しかし彼女は、頑なに動こうとしなかった。
「敵にあの子らを追わせる訳にはいかない。私もここで食い止める」
「な、何馬鹿言って…!」
「ねぇ太助…」
久美は銃を捨てると、側に落ちていた薙刀を拾い上げた。
「たくさん人が死んだんだ」
「………」
「それも、親の死に目、夫の死に目、息子や娘の死に目、それを見届けられなかった者達ばかりだ」
どんどん近づいてくる敵を見据えながら、久美は言葉を続けた。
「…太助、私達はとてつもなく幸せだと思わないか?こうして、また生きて会うことが出来た」
「久美…」
「それだけで…充分だ。私はもう…未練はない…」
そう言って微笑んだ彼女は本当に幸せそうで、太助の顔にも笑みが漏れた。
「いつもいつも勝手な女だな。結婚の約束はどうした」
刀を構えながら太助が言うと、
「お前が帰って来た時点で、私はすでに嫁になったんだ。よろしくな旦那様」
「はは、なんだソレ」
二人はお互いに笑い合った後、迫って来た敵を次々と迎え討った。
そして、敵も残り僅かというその時、太助の身体を一発の弾が貫いた。
彼の後ろにいた、久美をも巻き添えにして。
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