しあわせ

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弾を受けた太助は、崩れるように地面に膝をついた。 そしてそのまま、身体は前に傾こうとしたが、しかしその両腕は地面につくことなく、久美にへと伸ばされた。 ズシャン… 土ぼこりが辺りを舞う。太助と久美は、地面に雪崩れ込むよう二人して倒れた。 しかし、久美は直前で太助が庇ったおかげもあって、倒れた時の衝撃は彼女に伝わらなかった。 ムクリと上半身を起こした太助の口からは、ボタボタと血が滴り落ちる。 (…やられた) 右手を懐に差し入れれば、ヌルリとした感触がした。 幸い即死には至らなかったが、自分の身体のことは自分がよく分かる。 (俺は…死ぬのか…) こんな時まで冷静な己の頭に呆れてくる。いや、それよりも… 太助は半ば身体を引きずるようにして、倒れている久美の側まで寄った。 そして愕然とする。自分の身体を貫通して久美を襲った弾丸は、運が悪いことに彼女の胸を貫いていた。 ジワリジワリと、久美の着物を染めてゆく鮮血。 「久美…!」 愕然とする太助。しかし彼は、ただただそれ眺めることしか出来なかった。 「…久美」 泣きそうな声で名を呼ぶ。 「久美…」 何度も何度も。 すると彼女は、ピクリと身じろぎをした。 「…ッ…ハァ…くっ…」 弱々しく、けれど必死に伸ばされた久美の手を、太助は掬い上げるようにして握り、己の頬にあてた。 「…た……すけ…?」 久美の瞳が不安げに揺れている。きっともう、その瞳は光を宿していないのだろう。 太助は小さく「ああ」と呟くと、彼女の手を強く握った。 急激に冷めていく彼女の体温を、一秒でも長く感じていたいが為に。 「俺はここにいる…」 太助の存在を確認できた久美は、血を溢れさせている唇を笑みの形に持っていった。 「…け…がは……な…い…?」 「………ああ」 呼吸すら難しい程の痛みにも耐えながら、太助は平気な素振りで言葉を返す。 「…そ、う……っ……よかっ…た…よかった……たす…け…」 太助は、ポロポロと嬉し涙を流す久美の額を、空いたいる方の手で優しく撫でた。
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