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遅かれ早かれ、人は皆死んでゆく。
ただ、先に死ぬ者よりも、残された者の方が辛い思いをするだけだ。
だから俺は…
「久美…苦しいのなら…もう眠れ…」
お前より先に死んだりしない。
「お前が寝つくまで…」
取り残される悲しみを、お前に味あわせたくない。
「…俺が…見ていてやるから…」
これは、俺の最期のやせ我慢。
太助の言葉に安堵した久美は、彼に何かを伝えようと唇を動かした。
太助は顔を近づけて、彼女の言葉に耳を澄ます。
「…おやすみ…」
そう最後に呟いた彼女は、幸せそうな笑みを称えたまま息を引き取った。
ドサ…
久美が眠りについたと知ると同時に、太助は彼女に折り重なるようにして倒れた。
「……おや…すみ…久美…」
だんだんと遠のく意識の中、先ほどの久美の言葉が思い出された。
『私達はとてつもなく幸せだと思わないか?』
ああ…
本当だ…
俺達は幸せ者だな久美…
なんせ、愛する者と一緒に死んでゆけるのだから…
のちに見つかった二人の遺体は、本当に死んでいるのかも怪しいほど、幸せそうな笑みを浮かべていたという。
そして長きに渡った会津戦争は、これ以上犠牲者を出したくないという、容保の降参という形で幕を閉じたのだった。
幸せの形は人それぞれとはよく言ったもので、太助と久美は確かに幸せを手にしていた。
例えその幸せが、他人から見たら不幸と思えるものでも、彼らが満足しているのなら、それでいいのだろう。
そうこれは、二人の青年と少女の物語なのだからー…‥
あなたは今、幸せですか?
~完~
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