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目を覚ます。一人。そこに彼の姿はもうなかった。
もはや部屋の空気は冷え切っていて、小さく身震いする。
テーブルの上には食べかけのトースト。出しっぱなしのいちごジャム。思わず口が緩んだ。
「あ。」
ちらりと視界に入った目覚まし時計はもう一仕事を終えていて、それどころか針はもう昼過ぎであることを私に告げた。
「ヤ、バイ。」
急いで立ち上がって着替え始める。もうどっちが奥さんなんだか、彼があらかじめ用意してくれているドレスに袖を通す。
かすかにいい香りがする。
やはり、お水の女はそうでないと。
「ってあー……もう。」
靴下がない。いつもはきっちり服の下に置いてくれるのに。
店についたらどうせ脱ぐのだけれど、いつも履いていくのに。
どこ?
洋服ダンスの引き出しを開ける。どの引き出しか分からずに全てひっくり返す。
綺麗に並んだ服もひっこ抜く。
「ない!」
どうしよう。化粧の時間も考えたらこれ以上探してる時間はない。
お店柄、手は抜けない。ひとまず靴下探しは中断して、化粧だけはきっちりする。
そうこうしてる間にもう家を出るべき時間。
靴下はあきらめてヒールを履いていこう。
店以外にも履いたら足が痛くなっちゃうけど仕方ない。
急いで靴箱を開けると、そこに靴下があった。
なんだかぱんぱんになって。
カードがついて。
「HAPPY BIRTHDAY
いつもがんばってる君に」
靴下の中には、綺麗な箱。
開けたらそこには美しい指輪。
カードの文字は愛しい彼の。
指輪を右手の薬指にはめて、家を出る。
家に帰ってくるときは、ちゃんと左に付け替えるからね!
(了)
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