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今朝も雄鳥の時の声が村中に響きわたった。
ここはフリューゲル島のちょうど中部にある小さな村、ホックハルトだ。一つを除いてはこじんまりした木製の家がぽつんぽつんとあり、その間には肥やしの臭いを放つ畑や水田がある。
ここはフリューゲル島の中でもかなり人口が少なくて、一日のうちに必ずすべての村民と顔を合わせてしまうような場所だ。
雄鳥の声と時を同じくして、このホックハルトの村は行動を開始する。これは村の奇妙な習慣の1つだ。
ただ、その習慣を破って村を出て一路散歩に興じている兄弟がいる。
このど田舎でたった一つだけ立てられた島では珍しい屋敷のような立派な家。この島出身で貿易商を営むレメナス・マグラインの息子達だった。
彼らは村を一路南に行ったところにある町、ハボルにこっそり行くのが日課であった。
『今日もハボルに何か珍しい者があるといいよな』
言ったのは兄、フィロスである。髪は黒くこざっぱりとし、やや大人びた顔つきは端正だ。
『前にきた、なんて言った……ほら、酒場であっちの大陸のいろんな事について話してくれたあのおじさんがきてたら、嬉しいよね』
相づちを打ったのは弟、ガヴァルトスである。やや背の低い彼は兄の背の高さも手伝って、より小さく見えた。顔には明るい笑みが浮かんでいる。
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