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老人はゆっくりと頭をあげて二人を見た。
紺のローブをまとい、長い白髪をポニーテールのようにしたフリューゲルでは見られないタイプの老人だった。顔には無数の皺ができていてしなびたトマトさながらだったが、目だけは清閑な雰囲気を出している。
この老人はよくこのハボルの酒場に出入りしていて、フィロスとガヴァルトスはしょっちゅう老人から、ゴルボロスという名前の島の南にある大陸のあれこれについて話を聞いていた。
『おや、こんな朝早くからくるとは、ご苦労なことじゃ』
そう言って老人はゆっくりと笑った。何か辺りを暖かいもので包むかのような笑いだ。
『さぞかし、また向こうの大陸の話を聞きたいのじゃろう。いいだろう。時間はいくらでもあるから、話してあげようか』
老人のゴルボロス大陸の話に二人は目を輝かせ、耳をそばだたせて聞いた。
大きな国、宮殿の華やかさ、暮らしの豊かさぶりなどを何回も聞いていて、膿むことを知らなかった。というより実際には老人が話す内容が尽きることがなかった。
ガヴァルトスの抜群の記憶力がそれを証明していた。
『それにしてもなんでおじさんはそんなにあっちの大陸のことに詳しいの?』
ガヴァルトスは老人にいつも何気なく思っていた疑問を聞いてみた。
老人は微笑して
『なあに、80年近くあっちで流浪してれば嫌でも沢山思い出ができるよ………たしか始めたはフィロス、君の年頃くらいかねぇ』
老人は遥か昔の記憶の糸を引き寄せるように考えながらそう答えた。
『俺たちもあなたみたいに大陸のものを色々見ることはできるでしょうか?』
フィロスも老人に質問をしてみた。
老人は思い出にふけるように酒場の天井を一瞥し、そしてもう一度2人を見た。
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