事件

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吉法師は古渡城に戻ると武具を準備した。 弓矢を支度し、犬千代に馬を手配した。 二人は、清洲に向かって駆けてゆく。 闇夜なのでそんなに飛ばせない。 間道を駆けていったせいか、火をつけたと思われる若者たちに遭遇しなかった。 「余に文句があるなら、何故に城に火をつけぬ。城下の町人の家に付け火をするとは。」 はらわたが煮えくり返っていた。 清洲城下にたどり着いた。 もう明け方に近い。思いのほか時間がかかった。 吉法師は火矢の準備を犬千代にさせた。まだ火は付けない。 標的への射程に近づいてからだ。 馬を町外れにつなぎ、吉法師と犬千代は物音ひとつ立てず城門に近づいていった。 そう、吉法師の標的は城門であった。 町に火をつけて報復すれば、火を付けられた庶民が窮する。 それでは、あの若侍たちへの報復にならない。 門番二人が立っているが、油断しているようだ。 門番が二人と言うことは、一人はこちらへ向かってくるだろうし、もう一人は城へ注進に行くだろう。 その間に火矢を何本打ち込めるかが、勝負である。 火が付いたら追っ手が来る前に、馬まで戻り逃げなくてはならない。 犬千代には綿密に指示を出した。 タイミングを計り、火打石で油のしみこんだタンポのついた矢に火を付けさせる。 火打ち石の音で門番はこちらを振り向いている。 火は難なく付き、吉法師は即座に立って火矢をつがえる。 放つ。 火矢は見事に門の鴨居に命中した。 つがえる。放つ。つがえる。放つ。放つ。放つ。 5本門に命中させた。 少しずつ火は門に付いてゆく。 門番が目の前に迫ってきた。 犬千代が棒にすがろうとした刹那、門番の後ろに影が見えた。 門番は、どうっと犬千代の前に倒れた。 声が聞こえる。 「日吉です。助太刀に参りました。」 と、日吉が言うか言わぬかのうちに吉法師は逃げ出している。 犬千代も駆け出していた。 日吉もこれに続く。 火のついた門がつかえないので、別の門から、清洲の兵達が繰り出してくる。 このとき追っ手に騎馬の兵が居なかったため、3人は町外れまで無事にたどり着き、吉法師と犬千代は馬に乗って逃走することが出来た。
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