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朝餉を済ませ、午前中はまた鉄砲の話など父信秀に聞いたりしていた。
昼飯を食べ、流石に眠くなり横になって休んでいると早馬が来る音など騒がしくなった。
煩くて眠れず暇乞いに行こうと腰を上げたとき、柴田勝家が呼びに来た。
この男は、吉法師のことをよく思っていない。顔を見ればわかる。
「若君、殿がお呼びでございます。」
「権六、ちょうど今、暇乞いに参ろうと思っていたところだ。ちょうど良い。」
「若君!この度は何をしでかされました?」
家来の癖に、詰問するような口調だった。
「そちに話すことなど無い!」
不快なので切り捨てるように話し、廊下を先に立って歩いてゆく。
「大変なことをしでかされましたな!」
食い下がる勝家を無視し、廊下を歩いてゆく。
どかどかという足音は、2つ並んで信秀の前まで来た。
群臣が居並んでいる。軍議の最中の様だった。
信秀は、居並ぶ群臣の前で、大声で言った。
「吉法師、そなたは昨夜町屋が火事の際、どこかへ行き、朝城に戻ってきているが、
何処へ行っていた。」
「父上、某は、町家が延焼するのを防ぐべく、待機しておりました。」
「ほう、何処でじゃ。」
「下町の辺りでです。」
「実は、清洲でも城門を焼く火事があったそうだ。若い子供のような武者が二人、火矢を放ったとか。心当たりは無いか?」
「父上、某は下町に居たのです。何故に清洲に行くことが出来ましょう。」
あくまでもシラをきった。焦れて家臣たちが
「本当のことをお話くださいませ。」
と詰め寄ったが、吉法師は目を細め涼しい顔で
「知らぬ。」
と言ったきりだった。
仕方なく信秀は、この議自分に全て任せるよう家臣に話し散会となった。
軍議の後で、信秀に吉法師は呼ばれた。
「家臣たちも本当のことは知っておった。」
信秀は穏やかに言った。
「これへ。」
吉法師の前に、引き出された者が居た。
「あっ…。」
それは、ぼろぼろになるまで拷問された犬千代だった。
「この者は、凄いのう。まだ子供の癖に、お前を庇った。口を割らぬ。」
「犬…。」
思わず吉法師は犬千代に声を掛けた。犬千代は目だけで返事をした。
「お前は、もう既に大将の器だな。天晴れじゃ。」
「…。」
父が何を言い出すか分からず、返事が出来なかた。
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