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10分ほど追い掛け回したであろうか、かすりもしない。挙句に少年はするすると木に登ってしまった。
腹は立ったが、少年の身のこなしには感心していた。
(この猿ガキは、なかなか出来るな)
鞭を道端に投げて、少年に話しかける。満面の笑顔だ。
「降りて来いよ。鞭で叩くのはやめた。握り飯があるから食わないか?」
すると、猿顔の少年はちょっと思案しているようだったが、降りてきた。
吉法師は袋を開け、左手で5個ある握り飯を差し出した。
少年はにっこり笑い両手で握り飯を受け取るその瞬間!吉法師の拳骨が少年の頭を直撃した。
「ぎゃあ!」悲鳴を上げて少年は頭を押さえて吹っ飛び、倒れる。すかさず吉法師は馬乗りになった。
「こら!余の馬を止めるなど見上げたものだ。名は何と言う?」
少年は怖くなったのか泣き声ひとつあげない。ただ、吉法師を見ている。頭が痛いのか目から涙があふれている。
「中村の日吉といいます。」
この日吉と名乗る少年は真顔になるとネズミの様な顔に見える。憎めない顔をしている。
「余が誰か知っているか。」
「…吉法師様でしたか。申し訳ありませんでした。」
素直に謝るのでこれ以上怒る気にもなれず、吉法師は日吉を赦し握り飯を進めた。
日吉はがつがつと食べ始め、あっという間に5個あった握り飯を平らげてしまった。
吉法師は、食べ終わるのを見届ける馬に乗り先を急ごうとした。すると日吉は駆けてきて、
「何でもしますゆえ、家来にしてください。」
「お前の歳ならどこぞで奉公の口もあるだろう。」
「はい。つい、3日前まで奉公をしておりました。しかし、一生懸命働いてご主人には気にいってもらえるのですが、周りの先輩方が嫉妬するのです。いじめにあい、奉公先を飛び出して来た次第で…。」
「…であるか。」
「哀れな放浪児になってしまいました。どうかご奉公させてください。」
「他を当たるがよかろう。さらばじゃ。」
「お願いでござる」と哀願し、駆けて来る日吉を馬を走らせて振り切り、吉法師は古渡城への道を急いだ。
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