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吉法師は、命令口調で言った。
「余は吉法師。古渡城主織田信秀の嫡男である。古渡の城下で諍いは許さん。やめよ。」
「お前みたいにかぶきファッション君が、城主の息子な訳ないだろ。」
「ばーかじゃないの?すかしているのか?」
「城代の息子ならそんな、みっともない格好している訳ないだろ。」
「そういえば、古渡の息子はうつけと聞く。」
「ならば、そのうつけも更正してやるまでよ。」
若い男たちはげらげら笑い、吉法師にも刃を向けてくる。
吉法師の顔はさーっと青くなり、血管が浮き出てきた。
「お前ら無事で城下をでれると思うなよ!」
馬から降り、吉法師も刀を抜く。赤い鞘を道端に投げ捨て、構えた。
5対2だ。圧倒的に不利だ。
わいわいと人だかりが出来るが、怖くて誰も助けてくれそうな者はいない。
5人は、一斉に吉法師と犬千代に飛び掛ろうとした刹那、一人がうーんと言って倒れた。
そして、もう一人は振り向きざま頭に小石が当たるのが見えた。こいつも額を押さえてしゃがみこんでいる。
民家の屋根の上に少年がいた。石を投げたのは、先ほど振り切ったはずの日吉だった。
「吉法師様、助太刀致す。」
男たちは、3人だが、日吉の声に振り向いた若い男の鳩尾に犬千代がまた棒で突きを食らわし、吉法師は、もう一人の男の右の肋骨に峰打ちを入れた。若い男二人はともに倒れ、咳き込んだりもがいたりしている。
残りの一人になった。先ほどまで、吉法師や犬千代を馬鹿にしていた男の顔は蒼白になり、恐怖の色が見えた。男は逃げようにも人垣が邪魔で逃げられない。
それでも、振り向いて逃げようとした刹那、吉法師が袈裟懸けに峰打ちを食らわせ、犬千代が脇腹に突きを喰らわせた。男は悲鳴を上げて倒れた。
取り囲んだ野次馬たちは、拍手した。少年たちは、見事に6人を倒したのだ。
ギャラリーに向かって吉法師は、
「誰ぞ、手当てをするように。」
と言い馬上の人になった。
「吉法師様、危ないところを援けて頂き、誠にありがとうございました。是非私を家来にしてくだされ。」
犬千代は、馬上の吉法師に膝をつき懇願した。
「わかった。お前は見所があるので、家来にしよう。余と一緒に来るが良い。」
こうして、犬千代が家来になった。
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