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「おっはよー」なんて迎えにきてくれる可愛い幼馴染みも彼女もいない現実。まあ現実に欲しいとは思わないが。 そんなことを考えながら本屋へと歩いていた。高校に行かないときは、本屋かゲーセンか家にごろごろしてるに限る。 「あのー」 今日の新刊は何だったか。はて財布の中身は大丈夫だっただろうか。 「あのー」 大丈夫だ。確か昨日二万おろした。ところで今視界の端に何か映ったか。いやないな。 「あのー」 それよりも今日は確か蟹皮文庫の発売日だ。木國春希の新刊があったと思う。あの人の文体と感性に感嘆だ。頭が上がらない、はちと違うか。何にしても尊敬する作家の一人だ。 「あのー」 うん?―――あのうさんでも近くにいるのか、さっきから後ろで煩い声がする。何処の誰かは知らないが振り向いてやれよあのうさん。俺は振り向かないがな。振り向いたら駄目な予感がするから。 さぁ、本屋への道程は後僅かだ。 「あのっ!!」 ドスンという衝撃に俺はふらつく。遂に来たかあのーさん。何も俺にぶつかってまで逃げなくても。 「あのぉ―――なんで聞いてくれないんですかー」 ふむ、あのうさんはなんでだろうな。聞いてやりゃいいのに。 「分かってるぅくせにぃー」 そうか分かってるのかあのうさん。 「本屋さん着きましたね」 ほぅ、あのうさんも本屋に来たのか。 「あのぅ」 という言葉と共に俺は立ち止まらざるを得なかった。 何故なら俺の横を勢いよく抜けて、本屋の入口で両手を広げて立ち止まる女がいたから。 「邪魔なんでどいて下さいあのぅさんの連れの方」 その時――初めてみた女性は思ったよりも若かった。言えるのは間違いなく十代で制服を着てることから高校生ぐらいとわかる。もしかしたら同じ高校かも知れないが制服など覚えてない。似たような形なのは確か。 「えっ? あのぅさんって誰ですかぁ?」 「知りません」 「そうですかぁ、それではぁ――」 「どいて下さい。前も後ろもつまってますよ」 「えっ!?」 あぁ――すみませんすみません~。と通る人にぺこぺこ謝りながらそこをどいた。
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