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玄関のドアを開けた瞬間、人影がよぎりリツは反射的に後ろに下がった。
「ああ、すみません。」
お隣りの、旦那さんだ。
とっさの事だったので、笑顔でいえ、と言ってしまった自分を、リツは後悔する。
孝介は軽く頭を下げると、そのままアパートの階段を降りていった。
あれだけの争いをした後に、あんなに緩慢な態度が出来るものなのか。
リツと清が喧嘩した時(いつも くだらない理由で、それは起こる。)は、いくら些細な理由でもお互い、気分が悪くて喋る気にもなれない。
ましてや、あんなに大きな音を出したならバツの悪そうな顔をしても、いいのではないか?
悶々とするリツが102号室の前に来た、まさにその時にドアが開いた。
「あっ!」
何ていうか、これは、ヒドイ。
リツは三枝子を見て、悲鳴さえあげそうになった。
顔にはいくつもの青痣、瞼の辺りは切れて血が流れている。
服もひどい。まるで、ボロ雑巾を纏っているみたいだ。
所々、破れた所から覗く身体の痣と白い皮膚が、痛々しかった。
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