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ルーマがリーリアの耳元で囁いた。
「妖精の泉を使うのよ」
「……妖精の泉?」
「バカ! 小さい声で話しなさいよ」
ルーマとトーマは辺りに人の気配が無い事を確認すると、話を続けた。
「妖精の泉ってのはね、本来各地の妖精同士の連絡や、移住にしか使っちゃいけない物なのよ。……人間が使うなんてもってのほか」
「今回は神殿への潜入だし、あんたは特別よ」
リーリアは話を聞きながらも、泉をどう使うのか想像すら出来ずにいる。
――連絡? 移住?……町や村で飲み水に使っている泉は、綺麗な水が湧いてくるだけだけど。
「とにかく、行けばわかるよ」
慣れない森の獣道を、リーリアは一生懸命ルーマとトーマを見失わないように歩いた。
村から離れるにつれ、小鳥のさえずりは遠くなり……木漏れ日が差し込むものの鬱蒼と森は深くなる。
「ねえ、モンスターとか出ない? 大丈夫?」
「おバカのリーリア、妖精が統治する領域にモンスターが出るわけないじゃない」
「出ても野犬か狼よ」
「野犬に狼?……嘘でしょ」
二人に脅かされて顔色を青くするリーリア。
しかし、森は静かにリーリアの足音と葉と葉の間を飛び移る虫達の羽音を響かせるだけで、動物の気配はしない。
「ほら、ここよ」
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