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「わかりましたから、文の内容を……」
「わかっとらん! サンナード、お前は全然わかっとらん。私の祖父の代から大事に大事に使ってきた……」
語る長老を呆れた目で見つめるのは側近のサンナード。彼も二児の父親には見えない若さと逞しさだ。
「今は無き北の大地の物ですよね? わかってます」
サンナードの熱い炎にも似た、赤い瞳で冷たく睨まれると流石に村長も何も言えなくなってしまう。
「わかっとるならええ。で、文はだな……」
村長は腰帯に挟んでいた文を取り出した。
つるりとした光沢のある紙を広げる、神殿のみが文に使う事を許された貴重な物だ。
ふざけていた村長の顔色が曇る。
「神石アクア・ブルーが戻る兆しがあったそうじゃ」
「えっ!」
サンナードの顔色がみるみる青ざめていく。
「は、早すぎます。あの時に北の大地が失われてからまだ……次は、一体何が失われるって言うんですか!」
「そう焦るな。それよりも……」
窓の外は穏やかな波音と、潮風の音が続いている。
しかし、室内は重い空気に包まれていた。
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