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どれくらい走っただろうか。
私はさすがに疲れてしまい、公園のベンチに座った。
辺りを見回したが、悠の姿はない。
(もう諦めてくれたのかしら…。ここまでくれば安全よね。)
私はホッとして、肩の力を抜いた。
が、それがいけなかった。
突然、暗がりの中から手がのび、私の肩を掴んだ。
私は当然逃げようとしたが、時すでに遅く、悠に後ろから抱きすくめられる形になっていた。
悠が嬉しそうに私の耳元で囁く。
「蛍、やっと捕まえたよ。」
「悠…。」
「ねぇ蛍、こっち向いて。」
いつも通りの優しい声。
私は恐る恐る悠の方を向いた。
悠が元に戻っている事を願って。
しかし、それはやはり叶わぬ事だった。
悠の目は、もうすでに理性はなく、狂気の色に染まってしまっている。
私は知らない内に、涙を流していた。
「悠…、元に戻ってよ、……悠。」
涙が次々と溢れる。
悠はそんな私の涙を拭い、優しく微笑んだ。
「蛍、どうして泣いているの?怖いのかい??だったら何も泣く事はないよ。俺がずっと傍にいてあげるから。大丈夫、俺は蛍がどんなになっても、君が好きだよ。だから…」
悠の蛍を抱きしめる手に力がこもる。
(あぁ…、もう逃げられない…。)
蛍は、そう確信し、体の力を抜き、静かに目を閉じた。
悠が包丁を振り上げる。
「だから…、死んで。」
ドスッ
蛍の背中に包丁が突き刺さり、そこから出た真っ赤な血が悠と蛍を濡らしていく。
蛍は薄れ行く意識の中で悠の顔を見た。
そこには、蛍の大好きだった優しい悠の姿はなく、狂い、狂気に染まった顔で微笑んでいる彼の姿があっただけだった。
(あぁ…、貴方は完全に狂ってしまった。ゴメンね、救ってあげられなくて…。悠、大好きだよ。ただ愛していただけなのに…、どこで間違ったんだろう……。こんな悲しい末路、これが貴方の愛し方…。)
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