第四話

20/32
前へ
/293ページ
次へ
   係員が走ってきてリングの上に二個のボールを置いていく。  人の頭くらいの大きさのゴム製っぽい球体だ。  手を使わないでボールを落とさない?  持っちゃ駄目ってことだろうか。よくわからんルールである。 『両者がボールを頭の上に乗せた時点でスタートになりまーす』  り、理解したーっ。  リングサイドから見えるハルの横顔が、かなり困った色合いに変化したのが見える。  それもそのはず。 「ふへへへへ」  イメージ通り、イヤらしく笑うゴッドヘッド。彼の鳥の巣のような髪に、手ごろなサイズのボールがすっぽりと乗っかったのである。いな。乗せたと言うよりもアレは固定の領域である。ジャストフィットだ。  こりゃ確かに、今まで勝利した者がいない事実にも納得。  姑息すぎるぞ運営陣。 『ハールムゥト選手、早く頭に乗せちゃってくださーい』 「あ、は……はいっ」  ルールに戸惑っていたらしいハルだったが、進行役に急かされたため、顔を少し仰ぐようにして、それでも上手くオデコにボールを乗せている。俺にゃ、あれすらも難しそうだ。  準備が終わると、やにわに。 『第一戦、レディ……スッタァトッ!』  開始した。  簡単な曲芸としてなら、ハルのボールに対するバランス感覚は相当優秀な部類だっただろう。  しかし相手が悪すぎる。  ゴッドヘッドの、モジャモジャヘアーに絡まったボールは多少走ったくらいではビクともしないレベルの安定感である。対してハルは、ボールを頭に乗せていては満足に動けないだろう。  その上で、相手に攻撃可能というルール。 「さっさと終わらせてやるよぉ!」  ボールオンザヘッドである鳥の巣野郎がボールを吸いつけたまま走り出し、ハルに突っ込んでいった。 「わ、わわっ」  ハルは額でボールをコントロールして避けようとするが、さすがに横に動けばボールがこぼれそうになるもの。 「えいっ!」  苦しい中で考え出したらしいハルは、落ちかけた自分のボールを、向こうのスペースに高く蹴り飛ばした。  そーゆう一連の動作を、極めてスピーディな間隔で行い、大柄な男のタックルを回避するのもすごい話だ。  でも、ボール、落ちる落ちる。 「うわ、うわわ」  相手に攻撃する暇もないハルは慌てた顔で、浮かんでいるボールに向けて走り出す。姿勢の低いハルの疾走てのはいつ見てもスマートなもんで、二足ながらも狼あたりを連想させる。  
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20668人が本棚に入れています
本棚に追加