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係員が走ってきてリングの上に二個のボールを置いていく。
人の頭くらいの大きさのゴム製っぽい球体だ。
手を使わないでボールを落とさない?
持っちゃ駄目ってことだろうか。よくわからんルールである。
『両者がボールを頭の上に乗せた時点でスタートになりまーす』
り、理解したーっ。
リングサイドから見えるハルの横顔が、かなり困った色合いに変化したのが見える。
それもそのはず。
「ふへへへへ」
イメージ通り、イヤらしく笑うゴッドヘッド。彼の鳥の巣のような髪に、手ごろなサイズのボールがすっぽりと乗っかったのである。いな。乗せたと言うよりもアレは固定の領域である。ジャストフィットだ。
こりゃ確かに、今まで勝利した者がいない事実にも納得。
姑息すぎるぞ運営陣。
『ハールムゥト選手、早く頭に乗せちゃってくださーい』
「あ、は……はいっ」
ルールに戸惑っていたらしいハルだったが、進行役に急かされたため、顔を少し仰ぐようにして、それでも上手くオデコにボールを乗せている。俺にゃ、あれすらも難しそうだ。
準備が終わると、やにわに。
『第一戦、レディ……スッタァトッ!』
開始した。
簡単な曲芸としてなら、ハルのボールに対するバランス感覚は相当優秀な部類だっただろう。
しかし相手が悪すぎる。
ゴッドヘッドの、モジャモジャヘアーに絡まったボールは多少走ったくらいではビクともしないレベルの安定感である。対してハルは、ボールを頭に乗せていては満足に動けないだろう。
その上で、相手に攻撃可能というルール。
「さっさと終わらせてやるよぉ!」
ボールオンザヘッドである鳥の巣野郎がボールを吸いつけたまま走り出し、ハルに突っ込んでいった。
「わ、わわっ」
ハルは額でボールをコントロールして避けようとするが、さすがに横に動けばボールがこぼれそうになるもの。
「えいっ!」
苦しい中で考え出したらしいハルは、落ちかけた自分のボールを、向こうのスペースに高く蹴り飛ばした。
そーゆう一連の動作を、極めてスピーディな間隔で行い、大柄な男のタックルを回避するのもすごい話だ。
でも、ボール、落ちる落ちる。
「うわ、うわわ」
相手に攻撃する暇もないハルは慌てた顔で、浮かんでいるボールに向けて走り出す。姿勢の低いハルの疾走てのはいつ見てもスマートなもんで、二足ながらも狼あたりを連想させる。
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