第四話

21/32
前へ
/293ページ
次へ
 そうして、ボールが落下する前になんとか追いついた。さらに一度、ポンと軽く蹴り上げて、再びオデコに乗せている。  きっと、「普通の頭をしている者」同士でなら、ハールムゥトはこの競技でメチャクチャ強かったはずだ。ノーハンドでのボールの維持も巧みである。  だけども。 「器用じゃねぇかあ。いつまでも、もつかなぁ?」  今は距離が開いたゴッドヘッドは、余裕綽綽といった顔。たぶん奴は、バランスボール限定で本物の魔王よりも強そうだ。あんなん、ちょっとやそっと体を押した程度じゃボールが落ちそうもないぜ。  度しがたくアンフェアな戦況を見て、セイの憤慨した声調。 「なんだこの競技ッ。いわゆる無理ゲーではないか! おいこら、うんえーい!」  いわゆる意味不明なことを言いながら運営であるゴーレムガールに抗議した。  向こうにいる彼女は大きな肩を揺らして、 『異議は認めませーん。バランスボールで涙を飲んだチームは他にもいまーす』  にべもない返答。 「なるほど、なのです」  セイの横に立つシャムリーロッテが、無表情ながら得心したように言っている。 「これ、《黒星》を前提にした種目というわけですの」 「なんだって、そんな」 「単に、盛り上げるためでしょう。ゴーレムレースの映像記録は、王都の活動写真展で公開されますので。このトライアルも、勝ったり負けたりの方が観客も喜びますの」  んな殺生な。  そのようにイヤな裏事情を聞かされてしまうと、リングで健気にボールを維持し続けているハルがあまりにもかわいそうである。  と、俺が思った三十秒後には勝負が決していた。    ★ ★ ★  ――ハールムゥトの勝ちである。  順序良く行くと、まず、ハルは額でボールをコロコロして、空を眺めるように、こんなことを言い出したのだ。 「あのぅー?」  誰にあてたともわからない声だったが、 「ボールに、手で触れなければ良いんですよね?」  質問の形式に、返答したのはゴーレムガールである。 『はい、そーでーす。先ほどのように脚でボールを移動させるのは問題ありませーん』  それを聞いた時に、ハルの上向き顔はとっても明るい笑顔に変貌し、ボールを乗せたまま両手を「パチン」と合わせたのである。 「なるほどっ。わかっちゃいました!」 「ああーん?」  ハルの明るい反応に、ゴッドヘッドが怪訝そうな顔を浮かべた……  瞬間!  
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20668人が本棚に入れています
本棚に追加