第四話

26/32
前へ
/293ページ
次へ
 首を倒さなきゃ相手の顔も見れない背丈であるアルトは、ハルザックを相手に、こうとだけ言っている。 「お手柔らかに」  競技開始と相成った。  アルトとハルザックは、それぞれリング上、ドッジボール用に描かれた円陣の中に立っている。  両者の円陣の間には7メートルほどの空白。ハルザックの投げる球がピストル並に速くもない限りは、なんとか反応も出来そうな間隔である。  一回戦と同じく係員が来て両者に、今度は三つのボールが支給する。  即死効果と言える3ポイントの赤球が一つ。  1ポイントにしかならない青球が二つ。  ゴーレムガールがこんな事を付け足していた。 『あ、失敬。補足でーす。エリア外に出ることは認められないため、両者の陣地からボールが一つも無くなった場合は膠着状態と見なし、こちらで再び配球させていただきまーす!』 「ふはははは。そのような事態に陥る前に、勝負は決している!」  うぜぇこと言いながらハルザックがまず地面にある青球を掴んだ所で、ゴーレムガールの契機となる一声。 『改めてぇ……スッタァトッ!』    ★ ★ ★ 「小僧! まずは挨拶代わりだっ!」  丸太のように太い二の腕を豪快に回し、早速、ハルザックの手より青いボールが投げられた。  豪腕という触れ込みには間違いがなく、クソ速い。言っちまえば、あの一瞬はボールの形が歪んで見えてしまうような速度。  それをアルトが取れるわけもなかった。 「――いっ、つぅッ」  と言う声が聞こえる。  まったく最低だと思うが、いきなり顔面に狙ってきたボールを、アルトは両腕で庇うようにしてガードしたのだ。それは始めから、捕球する気などなかったことを知らせる格好である。単純に顔を庇っただけだ。  確かに痛そうな音が聞こえて、しかし、アルトもただ直撃されたというわけではないらしい。  ボールが当たる直前に身を退いたのか、はたまた姿勢を上手い具合に変えたのか、ハルザックの投げたボールはアルトにヒットした後、少年の陣地内に勢いを失って落ちていた。軽くバウンドし、円陣の外に出ることはない。 『青球がヒット! アルト選手、マイナス1ポイントですッ!』 「正しい選択ですの。捕球は無理と判断して、青球の確保に回ったんでしょうね」  解説好きのシャムが言った以降には、アルトのだいぶ、不機嫌そうなボヤき声が聞こえてくる。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20668人が本棚に入れています
本棚に追加