第四話

27/32

20667人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ
  「意外と、痛いね……。あったま来んな」  静かに憤慨している少年の呟きなど何処吹く風と言った様子で、子どもに対しても分別がない巨漢は笑う。あのあたりは流石に悪魔と言った性格か。 「ハーハーハァ! 持ち球を増やすためにガードしたか。心得ているなッ。しかし――」  言下、太い腕のハルザックが掴んだのは赤いボール。 「これをガードしたら、お前は終わりだぞッ!」  再度、ボールが高速で放たれた。少年にはおろか、大人の俺にも取る余地の無いスピードである。  しかも、今回は赤球。  当たれば3ポイント失ってジ、エンドだ。 「バカ。取るわけないだろ」  冷め切った口調で言うと、次のアルトは身を低くし、あっさり回避していた。  赤球はそのままリングの外まで飛んでいき、誰の物でもなくなる。  ここらで俺もわかってきたが、このドッジーボールという競技には攻撃ターンが存在するらしい。  今、ハルザックの陣地にあるのは青球が一つ残されたのみだが、アルトのエリアには先ほど青球がプラスされて、計4つになった状況。  たとえハルザックが次に青球を投げ、どう転んだとしても、残り2ポイントのアルトが負けることはない。  すると残りはアルトの攻撃ターンになったと言える。  しかし、二度の攻撃を終えた相手は、揺らぐことがない自分のアドバンテージを確信している模様。 「クク、冷静な少年よ。良いだろう。今からお前の好きに投げさせてやる!」  なんてことまで言い出した。  さりとて大人げないことには変わりがない。 「我は投げることだけではなく、何よりも捕球の達人! 我から1点でも奪うことが出来れば、お前に勝ちをくれてやるぞ!」  いいのかよ、んな勝手にルール追加しちまって。  まあ、それほど自信があるということなのだろう。実際、一投目も二投目も凄まじい球威であった。捕球に優れているというのも妄言ではあるまい。  ありがたい申し出に、しかしアルトは、 「ふぅん。そう」  淡白に鼻を鳴らし、自陣にある赤と青のボールを足でこねくり回している。  そのうち、青球の一個を蹴り上げて手の中に収めた。  猫のように笑う。 「じゃあ、1ポイントを狙おうかな」 「フハハハハ! 来るが良い!」  アルトの雰囲気からは余裕も伺えた。勝機でもあるのだろうか?  投球フォームに入る。  迫力のない、平凡な男の子の動きである。  ブン、と投げた。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20667人が本棚に入れています
本棚に追加