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「意外と、痛いね……。あったま来んな」
静かに憤慨している少年の呟きなど何処吹く風と言った様子で、子どもに対しても分別がない巨漢は笑う。あのあたりは流石に悪魔と言った性格か。
「ハーハーハァ! 持ち球を増やすためにガードしたか。心得ているなッ。しかし――」
言下、太い腕のハルザックが掴んだのは赤いボール。
「これをガードしたら、お前は終わりだぞッ!」
再度、ボールが高速で放たれた。少年にはおろか、大人の俺にも取る余地の無いスピードである。
しかも、今回は赤球。
当たれば3ポイント失ってジ、エンドだ。
「バカ。取るわけないだろ」
冷め切った口調で言うと、次のアルトは身を低くし、あっさり回避していた。
赤球はそのままリングの外まで飛んでいき、誰の物でもなくなる。
ここらで俺もわかってきたが、このドッジーボールという競技には攻撃ターンが存在するらしい。
今、ハルザックの陣地にあるのは青球が一つ残されたのみだが、アルトのエリアには先ほど青球がプラスされて、計4つになった状況。
たとえハルザックが次に青球を投げ、どう転んだとしても、残り2ポイントのアルトが負けることはない。
すると残りはアルトの攻撃ターンになったと言える。
しかし、二度の攻撃を終えた相手は、揺らぐことがない自分のアドバンテージを確信している模様。
「クク、冷静な少年よ。良いだろう。今からお前の好きに投げさせてやる!」
なんてことまで言い出した。
さりとて大人げないことには変わりがない。
「我は投げることだけではなく、何よりも捕球の達人! 我から1点でも奪うことが出来れば、お前に勝ちをくれてやるぞ!」
いいのかよ、んな勝手にルール追加しちまって。
まあ、それほど自信があるということなのだろう。実際、一投目も二投目も凄まじい球威であった。捕球に優れているというのも妄言ではあるまい。
ありがたい申し出に、しかしアルトは、
「ふぅん。そう」
淡白に鼻を鳴らし、自陣にある赤と青のボールを足でこねくり回している。
そのうち、青球の一個を蹴り上げて手の中に収めた。
猫のように笑う。
「じゃあ、1ポイントを狙おうかな」
「フハハハハ! 来るが良い!」
アルトの雰囲気からは余裕も伺えた。勝機でもあるのだろうか?
投球フォームに入る。
迫力のない、平凡な男の子の動きである。
ブン、と投げた。
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